粒子がインターロゲーションポイント(interrogation point:レーザー照射点)を通過するたびに、信号が発生し、すべての検出器でパルスが生成されます。 これらのパルスは、粒子が1つないし複数のレーザービームを通過し、通過した経路内の各点で生成された信号を反映します。 パルスの波形は時間の関数として信号をプロットすることによって描くことができます。
粒子がレーザービームスポットに入ると、散乱光および蛍光信号を生成し、最終的にはPMTの陽極からの電流(電子の流れ)として検出されます。 電流の大きさはPMTの光電陰極に当たった光子の数に比例するため、電流値は粒子による散乱または蛍光信号の強度にも比例します。 粒子がレーザービームスポットに入ると、PMTの出力が上昇し始め、粒子がレーザービームの中央に位置するときに最大に達します(図4)。
粒子全体が照射された時点で、最大量の光信号を生成します。(レーザービームの焦点の中心が、最も光子密度が高い)。 そして、粒子がレーザービームから外れていくと、PMTの電流出力はベースラインに戻ります。 このようなパルス発生を「イベント」と呼びます。
ただし、発生したすべてのシグナルが目的の粒子に対応するわけではありません。必要のない信号処理を避けるために、トリガーチャネル(Trigger Channel)と呼ぶ専用の検出器において、特定の信号強度(閾値)を設定します。トリガーパラメーターにおける閾値に基づいて不要なシグナルを除外します。PMTは極めて敏感であり、迷光、ほこり、非常に小さな粒子および細胞片(debris)など、実験データとは無関係の様々なモノからの信号を検出します。これらのパルスは、実験対象粒子のパルス数よりも数桁多く検出される可能性があります。これらの信号も解析対象に含めると、バックグラウンドレベルが上昇し、必要とするデータを実質的にマスクし、また、信号を処理する回路をオーバーロードすることになります。そのため、取得不要なデータが検出されないような閾値を設定することが必要です。それにはイベントを記録するためのトリガーパラメーターを選び(通常は前方散乱:FSC)、そのパラメーターにおいて閾値を設定します。閾値レベルを超えないパルスは、すべての検出器で無視されます(図5A)。閾値レベルを超えたパルスはすべて電子回路で処理されます(図5B)
パルスを検出した際、蛍光シグナルをプロット上に表示して、解析したり、解釈するためには、それらの定量化が必要です。これはシグナル処理回路で行われます。フローサイトメーターの大部分は現在デジタルシステムです。 PMTからのアナログ電流は、まずアナログ - デジタルコンバータ(ADC)によってデジタル化され、非常に小さなスライスの信号に分解されます。このプロセスは「サンプリング」と呼ばれます。各パルスは非常に短い時間間隔でサンプリングされ、各々サンプルはデジタル値として保存されます。これらの値を統合することで、元のパルスが再現されます。
電子回路は、そのHeight (高さ)、Area (面積) およびWidth (幅)を計算することによってパルス全体を定量化します。高さと面積(最大値と積分値)はPMTで検出された光子の数に比例するため、信号強度を測定するのに使用されます。一方、幅は粒子がレーザー中を通過するのに要した時間に比例するため、単一粒子とダブレット(Doublet:接着した2個の細胞)などとを区別するのに使用されます。(第5章 実験の最適化→ダブレット除去 参照)。
[Tips] 一般には分析(Cell Analyzer)ではThresholdは高めに設定し、目的外のシグナルが表示されないようにします。一方、セルソーティングでは目的外のコンタミネーションが起こらないようにThresholdは低めに設定します。
データはリニアスケール(Linear)で取得されますが、通常、蛍光強度はログスケール(Log)で表示します。 これにより、弱い信号を拡大し、強い信号を圧縮して、ヒストグラムに表示しやすい分布にするためです。リニアスケール表示は、例えば、蛍光量が2倍しか増加しないDNA解析など、蛍光シグナルの非常に小さな違いを評価する場合に必要です。
また、散乱光(FSC,SSC)は通常リニアスケールで表示し、細菌等小さな粒子を分析する時のみログスケールを使用します。
各検出器からの測定値をパラメーターと呼びます。 各パラメーターはフローサイトメトリーソフトウェアのヒストグラムおよびドットプロット上の高さ、面積および幅の値として表示することができます。 これらは蛍光強度を測定したり、集団を比較したり、分取する細胞集団を決定するのに使用されます。