蛍光補正(コンペンセーション)
(Fluorescence compensation)

[English version]

複数の蛍光色素を用いるマルチカラー実験の課題の一つとして、蛍光の「漏れ込み」の問題があります。フローサイトメトリーで使用される蛍光色素はさまざまな波長の蛍光を発します。例えば FITCは、緑色の他に、黄色やオレンジ色の蛍光も発するため、FITCだけで染色されたサンプルの蛍光が、PEチャンネルやPerCPチェンネルでも検出されます(図10)。この問題に対処するため、コンペンセーションと呼ばれる補正方法が用いられます。

相対的寄与(Relative contribution)

実験によっては、FITCは、黄色およびオレンジ色を発する他の色素、例えばPEと組み合わせることがあります。 そのような場合、それぞれの検出器で得られたシグナルについて、各蛍光色素の相対的な寄与の割合を決定する必要があります(図11)。

コンペンセーションの適用(Applying compensation)

図12で、FITCおよびPE染色したサンプルにどのようにコンペンセーションを適用するかを示します。 単一染色したサンプルは、スペクトルのオーバーラップ量を明確にします。 サンプルを両蛍光色素で染色し、コンペンセーションをせずに測定された場合、ダブルポジティブな集団が観察されます。 しかし、ソフトウェアを使用して適切なレベルの補正をすると、本来の染色レベルがわかります。 ソフトウェアは漏れ込みの数値を計算し、これをデータに適用して正しく補正されたデータを表示します。 コンペンセーション後、相互に排他的なマーカーでは起こり得ないダブルポジティブ細胞は実際には存在しないことがわかります。

スペクトルが重ならない蛍光色素の組み合わせを使用することで、コンペンセーションの必要性を低減するためには、異軸方式(4ページ参照)のフローサイトメーターを用いて、特定のレーザーでのみ励起される蛍光色素の組み合わせで細胞を染色する方法が考えられます。しかし、この方法では蛍光色素の数をあまり増やせず、かつ使用可能なレーザーの種類に応じて蛍光色素を変える必要もあります。そこでバイオ・ラッドでは、スペクトルの重複が少ない4つの蛍光色素の組み合わせを採用し、コンペンセーションが不要な汎用の免疫表現型(Immunophenotyping)パネルを開発しました。一般的な血球分類に使用でき、より複雑なパネルを構築するためのスタートラインとしても活用できます。 B細胞、T細胞、NK細胞および骨髄系のパネルについての詳細は、No Compensationパネルウェブページをご覧ください。

コンペンセーションコントロール(Compensation Controls)

コンペンセーションコントロールを設計する際に覚えておくべきいくつかの基本原則があります。 コンペンセーションコントロールは、実験に使用するマーカーに対して陽性あるいは陰性であるかを判断するのに重要であるため、実験を成功させるためには絶対的に重要です。 コンペンセーションコントロールの定義は簡単です。実験で使用した各蛍光色素について、単染色細胞あるいはビーズサンプルも準備する必要があります。 フローサイトメトリーにおけるコントロールの重要なルールについて第4章で詳しく説明します。