フローサイトメーターの細いノズルやチューブが詰まるのを防ぐために、単一の細胞を105-107 cells/mlの濃度で懸濁する必要があります。 濃度はまた、ソーティングの速度にも影響します。通常、2,000-20,000細胞/秒で行われます。 ソート速度が速くなると、収量(Yield)や回収率(Recovery)が低下する可能性があります。
リン酸緩衝液(PBS, Phosphate buffered saline)は、一般的な懸濁バッファーです。 フローサイトメトリーの最も簡単なサンプルとしては、培養した非接着性細胞、水中微生物、細菌、および酵母などがあります。 全血も扱いやすいサンプルの一つです。 通常、赤血球を簡単な溶解処理により除去した後、FSCおよびSSC特性によってリンパ球、顆粒球および単球を迅速に同定できます(図13参照)。
ただし、肝臓や腫瘍といった固形組織からの細胞を解析したい場合には、固形組織を分散させて、単一の細胞にする必要があります。 それには、機械的な方法または酵素処理により行います。 機械的な分散処理は、培養、骨髄、およびリンパ組織由来の付着細胞のような緩く結合した構造に適しています。 これは細断した組織の懸濁液を細いニードルに数回通し、必要に応じて再処理を行います。
酵素処理は、細胞どうしを結合するタンパク質 - タンパク質相互作用や細胞外マトリックスを破壊するために使用されます。 それらの作用はpH、温度、補因子などの因子に依存するため、酵素の選択には注意が必要です。 例えば、ペプシンはpH1.5と2.5の間で最適に作用しますが、中和しないまま酸性条件に長時間放置すると細胞を損傷し、目的の細胞表面抗原が失われる可能性があります。 エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびエチレングリコール - ビス(2-アミノエチルエーテル)-N、N、N'-テトラ酢酸(EGTA)のようなキレート剤は、細胞機能および完全性の維持に関与する二価カチオンを除去しますが、 特定の酵素を阻害します。 例えば、コラゲナーゼは活性のためにCa2+を必要とします。 酵素的または機械的な方法によって細胞分散する場合、抗原の単離の最適化には試行錯誤が必要な場合があります。
フローサイトメトリーを用いて、サイトカインなどの細胞内成分を解析するためには、細胞の全体的な完全性を保持したまま、細胞膜の透過性を高めて、蛍光色素や抗体分子を浸透させる必要があります。 それには、サポニン(Saponin)のような低濃度(最大 0.1%)の非イオン性界面活性剤が適しています。 端的に言えば、サンプル調製は、出発材料(サンプルソース)と対象とする抗原エピトープの性質に依存します。 ここではすべての手法を取り上げることはできませんが、この章ではいくつか標準的なプロトコールをご紹介します。
フローサイトメトリーの最も簡単なサンプルは組織細胞培養の非接着性細胞です。 ここでは、懸濁培養および接着性培養で増やした細胞株の両方についてのプロトコール(FC1)も紹介します。
そうした細胞以外の解析が必要な場合があります。ヒト末梢血単核細胞の調製方法(プロトコールFC2)、および腹腔マクロファージ、骨髄、胸腺および脾臓細胞の調製のためのプロトコール(プロトコールFC3)を示します。
ヒトの血液や細胞に接触した容器はすべて、有害廃棄物とみなし、適切に処分してください。
以下の点についても、フローサイトメトリー実験をデザインする上で考慮すべきです。
1. 脾臓細胞などの細胞種での実験の場合には、FcレセプターをFcRブロッキング試薬(例えば、Mouse Seroblock FcR Reagent, BUF041など)で、ブロックしておく必要があります。
2. 適切なコントロール実験についてもいつも実施すべきです。
- 染色の特異性の決定のためのアイソタイプコントロール(Isotype controls)
- 自家蛍光のモニタするための、無染色の細胞
全てのマルチカラーフローサイトメトリー実験では、ゲーティングの境界線を特定するのに役立つため、蛍光補正コントロールおよびFMO(Fluorescence minus one, 蛍光色素を一つ除いた)コントロールについても含めておくことが推奨されます。
注記:これらの方法はあくまで一般的な手順です。試薬メーカーから提供された製品情報やロット固有の情報と合わせて使用する必要があります。
また、これらの技術において、デザインが成功し、実験がうまくいくためには、一定レベルの技術スキルと免疫学の知識が必要です。 これらはあくまでガイドラインであり、それぞれの用途に合わせて調整する必要があります。
様々な材料から細胞を得るためのプロトコールです。状態のよい細胞を得ることは適切な染色と解析のために重要です。
薬理学的試薬および抗体を用いた一般的な活性化プロトコール。 フローサイトメトリーを用いて、免疫活性、マーカーのアップレギュレーション、サイトカイン放出および増殖を決定するのに最適です。